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ふるさと桐生の民話
■2/13-ふるさと桐生の民話-#133話・淡島様の和合石清水義男(採録)、川内町3丁目に伝わる”#133淡島様の和合石”です。
雲祥寺の和合石の言い伝えです。
★★物語をお聞きになるにはMediaPlayerかQuicktimePlayerが必要です★★
【音声ファイル(10分11秒)】
川内町三丁目
淡島様の和合石
好きな人と添えられるよう、抱きつければ念願がかなう
川内町三丁目の高台に縄文時代(二、五〇〇年~六、〇〇〇年ほど昔)の遺跡が見られます。その遺跡近くの山麓に、四百五十年もの長い歴史を有する古刹・雲祥寺が在ります。雲祥寺本堂前の池水には、今日もピンクの花びらを精一杯に大きく広げたハスの花が、いくつもいくつも咲き誇り、「美しさ」を競っていました。
その日は、空もきれいに晴れわたり、ほおにあたるそよ風が、本当に心地よく感じられる穏やかな日でした。でも、雲祥寺には珍しく法事がひとつもなかったようで、本堂の裏手の山腹に広がる広い墓地には、たった二人だけ墓参りをする人影があるだけでした。それは、村内に住む幸兵衛さん夫婦の姿でした。幸兵衛さん夫婦は、今日がたまたま亡父の祥月命日でしたので、久しぶりに夫婦がそろって墓参りに来ていたのです。
線香、生花、団子などなど、用意してきた供物を墓前に供え、ゆっくりと亡父との語らいを済ませた幸兵衛さん夫婦は、残っていた水桶の中の水をお墓にたっぷりとかけますと、ゆっくりと立ち上がりました。
「今日は、実にいい日だなあ。こんなにいい日に親父の墓参りができるなんて、わしは夢にも思わなかったよ。なあ、かあさんや。」
墓参りの戻り道、幸兵衛さんがおかみさんのおたえさんに、こう声をかけながら、何げなく隣接する淡島神社(現在の三島神社)を見やりました。
こんもりとした森の緑に、あたかも抱かれるかのように遷座する淡島神社の境内で、目隠しをした一人の若い娘が、なにごとかをつぶやきながら、前方に立つ一本の石の柱に向かって、手探りするようにして真剣に歩み寄っていく姿が、幸兵衛さんの目に写りました。
「かあさんよ。ほら、若い娘が今日も淡島様に願かけにきているよ。」
「ほんとだねえ。淡島様の御利益って随分あるんだそうだよ。けっこう若い娘が淡島様にやってきては、ああやって一所懸命に願をかけるんだって。」
「好きな彼氏と一緒になれますようにって、願をかけるんだそうだな。」
「だから若い娘がうらやましいんだよ。いい彼氏と一緒になりたいって、人目もはばからず、ああやって何度も何度も『和合石』に近寄っていくんだから・・・・・。」
「それにしても、あの娘っ子は、なんともあぶなっかしいな。目隠しをしているもんだから、腰が引けちゃって手探りしながらだもんな。転ばなけりゃいいが。」
「大丈夫ですよ。真剣なんだから。真剣なときにゃ転んでもケガなんかしないんもんですよ。」
「それにしてもあぶなっかしいなあ。ほら、またつまづいた。」
「あたしにも、昔は、あんな年頃のときがあったんだけど・・・・。あたしは和合石に願かけをしたことがあったっけかな。まったく覚えてないよ。」
「若いころ、かあさんもきっとやったに違いないよ。わしと一緒になりたいって、あの娘のように真剣に・・・・。だから、こんな立派な旦那さんがもてたんじゃないか。」
「お前さん、あんまりうぬぼれでないよ。あたしにはね、お前さんのところに嫁いできて、ほんとは悔やんでいるんだからね。」
「とかなんとかいって・・・・。ほら、顔が赤くなったぞ。アッハッハツハ。」
「いやなお前さん。こんなときに、人をからかうんなんて。」
実は、ここ淡島神社は、若い娘たちが耳をそばだてたいような、とてもすてきな話が、昔から地元に伝えられていたのでした。
『なんとしても一緒になりたい彼氏ができたら、ソーッと淡島様にお参りして、境内の隅に立つ和合石に、『ぜひとも一緒になれますように。』とお願いすることだ。お願いの方法は、和合石から十間(およそ18m)ほど離れたところにある台石のところで目隠しをし、そこでグルグルグルッと三回転してから、目隠ししたまま和合石に向かう。運よく和合石に抱き着くことができれば、必ず思う人と添い遂げられるよう、淡島様が御利益を授けてくださる。』
と・・・・・・・。
幸兵衛さん夫婦が墓地の近くで、先ほどのような会話をかわしている最中のことでした。幸兵衛さんと淡島様を見つめていたおかみさんが、「アレレレッ。」といった顔をして、幸兵衛さんを振り返りました。
「お前さん、あそこで願かけをしている娘だけどさ、あれは隣ん家のお孝ちゃんじゃないかね。」
「なになに?あーれ、あれはたしかにお孝坊だよ。」
「ね、お孝ちゃんだよね。」
「へーえ、お孝坊も、そんな年頃になったんだなあ。子供だ、子供だって思っていたんだけんど・・・・・・・・・。」
「彼氏か。いいもんだろうね。あたしも、もう一度若返ってそんな気分になってみたいよ。」
「おいおい、なにを言い出すんだ。こんな年齢になって・・・・。」
「アハッ、お前さんこそ。さては少し心配になったのかね。フフフフフ。」
「こいつ。アッハッハッハ。」
幸兵衛さんとおたえさんの二人は、足もとの水桶を手にしますと、何事もなかったかのように、笑い声だけを残して墓地を後にしていきました。
隣ん家の幸兵衛さん夫婦に、和合石への願かけしている姿を見られてしまったとはつゆ知らず、淡島神社の境内では、目隠し姿のお孝ちゃんが、相変わらずソロリソロリと危なっかしい足取りで、和合石に近寄っていきました。お孝ちゃんの歩み寄りは、あれからもう、何度目になるのでしょうか。
目隠しをして歩み寄り、和合石に抱き着けると、大好きな彼氏と一緒になれるという、淡島様の昔からのいわれを知ってのことでしょうか。それとも、言い伝えはまったく知らない、遊びの一つからなのでしょうか。平成の世の中になっても、ときには、目隠しをした若い娘が、手探りでこわごわと和合石に、歩み寄っていく姿を見かけることがあります。
淡島様は、そんな現代っ子娘の姿にほほ笑みながら、昔と同じように、今も御利益をお授けになられているのかも知れません。
ですから、時には、
「神様、待ってえ。わたしのは遊び。あの人と一緒にさせられちゃ困るの。」
なんていう女の子の慌てた声も、淡島様に届けられているのかも知れません。
◆淡島神社(あわしまじんじゃ)◆
川内町三丁目上の台に祀られている淡島神社は、現在の三島神社の旧名称で、雲祥寺(元別当寺)に隣接する。祭神は、少名昆古那命(少彦名命とも書かれる・すくなひこなのみこと)ほか九柱。
大正二年(一九一三)六月十日に十余の小社を合祀して、三島神社と改称している。少名昆小那命は五穀豊饒の神、国土経営の神、医薬の神、子宝安産の神、夫婦和合の神として崇敬される。
淡島神社の名を有した神社は、かつて桐生市内では、この神社一社のみであったと、文献に見られる。創建年不詳。

